このページの最終更新:20th Aug 2001

キイを金で作るとどうなるか

本体が洋白で作ってあるわけ / わざわざメッキ仕上げにするわけ

本体が洋白で作ってあるわけ

普通のキイはどういう造りか

クラリネットのキイは、普通きれいな銀色をしています。楽器カタログなどを 参照すれば、それが銀(時にニッケル)のメッキであることはすぐ分かります。また、 そのメッキの下にある本体は、カタログに載っていないこともありますが、たいていの場合は 洋白という合金を鍛造しています。鍛造とは、ハンマーなどで叩いて形を作ることです。ただ、楽器のキイの場合は、刀鍛冶がやるように本当にかなづちで叩くのではなく、どちらかというと押し寿司を作るイメージに近いものがあります。

ところで、みなさんは何かの拍子に楽器をどこかにぶつけてしまった経験はありませんか? キイは、そういうショックに対してあまり強くありません。すぐに曲がってしまいます。 もともとやわらかい洋白を叩いてキイを作っているのですから、同じように叩けば形が変わってしまうのです。
また、キイを一生懸命磨いていると、メッキがはがれてしまって地金が出てきてしまい、 見た目にもきたなくなってしまうことがあります。

このように考えていくと、いくつかの疑問が出てきます。ひとつは、わざわざメッキしなくても はじめからきれいな金属でキイを作ってはいけないのか、ということ。もう一つは もっと丈夫な材料でキイを作ることはできないのかということです。

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丈夫なキイを作ることはできないのか

まずは、洋白ではなくてもっと丈夫なキイを作ることができないのかを考えてみましょう。 洋白より打撃に強い金属はいくらでもあります。極端な例では、変形しにくいという点でいえば ゴルフドライバーのヘッドに使われるチタンなどがその代表です。もしチタンでキイを作れば、 非常に丈夫になりますし、重さも金属の中では軽いほうですから、有利です。さらに見た目にも それなりにきれいなのですが、どうでしょうか。
ここで問題になるのは、固いということは衝撃に強いということと同時に加工がしにくい ということでもあります。チタンドライバーを見てみると、実際にチタンが使われているのは ヘッドのボールが当たる部分だけです。これは、材料が高価であるということももちろん ありますが、できるだけ単純な形にして加工を省略しようという設計なのです。
楽器のキイは、その形は複雑です。ですから、ドライバーヘッドのような単純な加工では 済みません。もちろん金に糸目を付けなければ作ることは可能ですが、そこまでして 固いキイにこだわる必要はないといえます。

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軽いキイを作ることはできないのか

キイが洋白で作ってあるということで、気になることのひとつに、楽器全体の重さが 重くなってしまうということがあります。もし、もっと軽い材料で作ることができれば、 楽器の重さが軽くなり、ひいては右手親指への負担が小さくなるのですが、まわりを見ても そういう楽器は見あたりません。
洋白よりも軽い材料はいろいろありますが、たとえばプラスチックのようなもので作れば、 加工もしやすい上に軽くなっていいように思えます。あるいはアルミで作っても、 洋白よりは軽くなりそうです。もしそういう材料でキイを作ると、どんな問題があるのでしょうか。

プラスチックなどの石油化学製品には、その材質上の大きな特徴がいくつかありますが、 ここで問題となってくるのは、プラスチックの可塑性と劣化性です。プラスチックは 力を加えると変形し、その力がなくなると元に戻ります。また、大きな力を加えると、 力をのぞいても少し変形が残ってしまいます。この特徴は金属などでも一緒なのですが、 プラスチックの場合、大きな力による変形量に一定の規則がうまく成り立ちません。同じ力でも 変形の残り方が変わってしまうのです。このことは、キイを調整するときに大きな問題と なってきます。また、プラスチックは時間の経過とともに劣化してきます。特に紫外線に弱く、 時間とともにもろくなってしまいます。その結果、演奏中にぽきんとキイがおれてしまうことにも なりかねないのです。
このように、キイにプラスチックはむいていません。アルミニウムに関しては、 丈夫さについて洋白に劣ることはないように思いますが、加工性に関してはやはり その自由度という意味では洋白にはかなわないといえるでしょう。やはり、適度な やわらかさを持っていることが、あの複雑なキイの形状を実現するには不可欠な 要素となっているようです。

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高価な金属でキイを作ることはできないか

ところで、加工性という点では金や銀は非常に優れた金属であるといえます。 また見た目が美しいこともあって、貴金属として重宝されています。では、その加工性を 生かして、キイに金や銀を採用することはできないのでしょうか。
結論からいえば、フルートを銀や金で作った物があることからも分かるとおり、 キイをすべて金や銀で作ることは可能です。しかし、フルートの歌口だけで100万円以上 したりする事からも分かるとおり、キイを金や銀で作るといくらかかるか想像もつきません。 お金がうなるほどあって困っているのであればともかく、普通の楽器奏者にとって そのようなキイは過剰設備以外の何ものでもありません。

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本体が洋白で作ってあるわけ / わざわざメッキ仕上げにするわけ