このページの最終更新:21st Nov 2001

工学的にみたキイオイル論

機械部品の摩擦と影響

私たちは、楽器のキイにときどきキイオイルを塗ります。なぜオイルを塗るのかといえば もちろん動きをよくするためですが、ではなぜオイルを塗ることがこれほど大事なのでしょうか。

その前にまず、オイルを塗らないで使いつづけたらどうなるのかを考えてみましょう。
楽器のキイに限らず、機械部品がこすれあう部分では、必ず摩擦による影響が起こります。 影響する要因としては、摩擦部分の材質、摩擦する速度、頻度、摩擦部分にかかる荷重などがあります。 これらの組み合わせや大きさによって、いくつかの現象が起こります。
まず一番よくみられるのが、摩擦部分の抵抗が大きくなり、動かすのに余分な力が必要になることです。 これが、手入れの悪いドアや門が重たく感じられる現象と同じです。これと同じ状態のとき、 動きがぎこちなくなることもあります。ドアがきしむのがこの現象にあたります。キイでは、 キイの動きが重くなることになります。

次に、摩擦部分が削れてしまう現象があります。一般的に磨耗と呼ばれます。これは、極端な例ですが 消しゴムが使うにつれて小さくなるのと原理は同じです。楽器のキイで同じ状態になると、 キイがキイポストに対してぐらつくことになります。

もう一つ考えられる現象は、摩擦部分がくっついてしまう現象です。摩擦部分が熱を持って 溶けてしまう場合や、偶然引っかかった部分をきっかけにくっつくこともあります。身近には いい例は見当たらないようです。もしこの現象がキイで起こると、キイは二度と動かなくなります。

このような現象が、摩擦部分で起こる可能性があるのです。これを回避する方法はいくつかありますが、 その中でもっとも手軽で、しかも比較的よく利用されているのが、オイルによって潤滑を確保する 方法なのです。

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潤滑油の役割

では、潤滑油はどのようにして摩擦による影響を軽減しているのでしょうか。
表面保護による潤滑 ひとつは、オイルが表面を見かけ上滑らかにする作用です。左の図のように、摩擦面の表面を拡大すると 凹凸がたくさんあります。これらが直接ぶつかると、引っかかるのはすぐに想像できます。オイルが あることでこの凹凸の隙間を埋め、ぶつかったときの引っ掛かりを少なくするのです。
表面保護による潤滑 ふたつ目は、摩擦部分そのものを引き離す作用です。これは、高速回転する軸と軸受けの場合に 特に顕著なのですが、左図のように周りが油で満たされていると、軸が油を隙間の狭い部分(通常は 下側)に巻き込むことによって、軸が油の中に浮かんだような状態になります。このとき、 軸と軸受けは直接触れていません。
もうひとつは、油が摩擦部分の熱を奪い取るものです。先に述べた現象の多くは、摩擦部分が 熱を持つことによってひどくなることが多くあります。油が摩擦部分の熱を奪うことで温度を下げ、 間接的に摩擦による影響を少なくする役目も果たしているのです。

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私たちが気にすべきこと

ところで、潤滑油はそのまま放置しておくと、流れてしまったり、飛んでいってしまいます。 それが積み重なれば潤滑油が不足して、摩擦による悪影響が顕著になってきます。これを防ぐために 一般的な機械では、定期的に潤滑油を補給する必要があります。このことは、クラリネットでも 同じです。

ときどき「扇風機は油をささなくても何年でも動くじゃないか、クラだって一緒じゃないの?」と 言う方がいます。扇風機もクラも、摩擦部分にかかる力が小さいという点では、確かに一理あります。 ところが、扇風機の軸には「無給油潤滑」という特殊な潤滑方法を使っているのです。これによって 潤滑油の損失がほとんどなくなるので、給油の必要がないのです。クラリネットのキイと キイポストには、そんな機構を入れるだけのスペースは残念ながらありません。

最後にこれらを踏まえて、私たちがどんなことを気にすればいいのかを考えておきましょう。
一番大事なのは、潤滑油が切れた状態で使いつづけることがないように、ときどきキイオイルを さしておくことです。その頻度は色々な説がありますが、多くの楽器カタログや教則本にあるとおり、 1ヶ月から数ヶ月を目安とすればいいでしょう。
次に使う場所ですが、理想的には摩擦する部分すべてになります。しかし現実には、チューブ状の 管の中を軸が通っている場合もあり、外からではすべての部分にさすことは困難です。そこで、 普段は外からさせる摩擦部分にさすようにし、楽器屋さんなどで見てもらう機会があれば、そのときに 一緒にお願いするのが一番素直かもしれません。
そして、一番気をつけたいのは、余分な油は必ずふき取ることです。油がなくなるのを気にするならば、 はじめからたくさんさしておけばいいような気もします。ところが、液体は一般的に空気中の チリや埃を吸いつけやすく、一度吸いつけるとそう簡単には離さない、という性質があります。 たくさんキイオイルをさして、あふれた分をそのままにしておくと、そこにちりや埃が吸いこまれます。 これらが摩擦部分に入り込むと、せっかく潤滑油が凹凸を埋めたり軸を浮かせたのが 台無しになってしまいます。ですから、あふれた油は必ずふき取るようにしましょう。

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