このページの最終更新:23th Dec 2002

キイが変色する原理

キイが黒くなる…

皆さんは、しばらく使っていなかった楽器を久しぶりに吹こうとしたら キイが真っ黒になっていた、という経験がありませんか? あるいは、学校の 備品楽器などで、キイの奥まったところなどが黒っぽくなっている、という ものを見かけたりしませんか? 自分自身は経験がなかったとしても、 周りにそういった体験をした方が意外と多くおられるのではないでしょうか。

もちろん、楽器を単に吹くだけであればキイが多少黒くなっていても 実害はほとんどありません。といっても、キイがまだらに黒くなっているのは 見栄えが悪いですし、自分が大事にしている楽器なのにキイが黒くなってしまっては 非常に心苦しいところです。
そこで、この黒い変色の原因が何か、そしてどうすれば黒くならずに済むのかを 考えてみましょう。

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じつは「酸化」ではなく「硫化」だった

まずは、このキイを黒くしているのが何なのかを考えてみましょう。楽器の カタログを見てみると分かりますが、クラリネットのキイはそのほとんどが 銀メッキ仕上げです。ということは、その銀がどうにかすると黒くなる、と 考えることができます。
ここで、金属の色や見ためが変化する大きな原因の一つに「さび」があります。 たとえば鉄などがさびると、表面が赤っぽくなったり黒っぽくなったりします。 金属がさびるのは、一般的に酸化といいます。銀であれば、酸化すると 酸化銀という物質に変化します。そして酸化銀は、ちょうど黒から濃い茶褐色の 間の色をしています。

ところが、銀は空気中に置いておいてもほとんど酸化しないのです。これは、 銀はなにかに溶けた状態よりも銀そのもののほうが安定なので、空中の酸素程度では 酸化銀へ変化することができないのです。もちろん、絶対変化することがない、とは いえないのですが、私達が経験する変化の速度は実現できません。

この黒い物体は一体なんなのでしょうか。皆さんは「温泉に銀のアクセサリーを つけていったら変色した」といった話を聞いたことはないでしょうか。温泉といえば、 あの独特の硫黄のにおいを思い浮かべる方も多いのではないかと思います。じつは、その においの元となっている硫黄やその化合物も、銀を変色させることができるのです。 銀は、硫黄やその化合物によって硫化銀に変化します。硫化銀も、酸化銀と同じく 黒色をしています。そして酸化と異なり、銀の硫化は空中のわずかな硫黄やその化合物でも かなりの速さで進行してしまうのです。

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硫化の原因と対策

では、キイの硫化を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。
楽器を温泉に持っていかなくても、急にキイの変色が進むことがあります。それは、 マウスピースなどを新しく購入し、それを楽器ケースに一緒にしまった時です。 マウスピースは、一部の例外のほかは、エボナイトやABS樹脂などの樹脂類で作られています。 これらの樹脂類は、その加工の過程で硫黄を含有させることで、樹脂の性質を調整します。 このときに使った硫黄の一部が、樹脂の表面から空中に微量ずつ拡散し、それが キイの変色に影響します。
ですから、新しいマウスピースや樹脂部品を楽器ケースと別にしまうことで、キイの変色を 抑えることができます。この硫黄の拡散は、ある程度時間がたつとほとんどなくなるので、 そうなれば楽器ケースに一緒に入れてもほとんど影響はないでしょう。

また温泉でなくても、大気中にはごくごく微量ながら硫黄の化合物が含まれています。 自然に発生したものの他に、工場や自動車の排気ガスから出されたものもあります。 これらもキイの硫化に関係していますから、厳密にはキイを空気に触れさせないよう保つ 必要があります。たとえば吹き手がいない予備楽器などの場合、空気を抜いたチャックつき ビニル袋などに楽器を入れた上でしまっておけば、キイの変色は大幅に軽減されるでしょう。

いずれにしても、普段からの手入れが一番大事になってきます。たとえばキイに汗や汚れが 残ったまま放置すると、きちんと掃除した時よりよ硫化の進行が早くなることが 多いようです。確かに面倒ですが、普段からこまめにキイを拭きあげておくことが、 きれいなキイを保つ秘訣になるのではないでしょうか。

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