このページの最終更新:9th Nov 2001

楽器を振動させること

音のみなもとは管の中の空気

私たちはよく「まん中のソからシのフラットまでの音はスカスカになる」といったりします。 事実、この付近の喉音はクラリネットの音の中でも一番響きが薄くなる音域だといわれています。 その解決法として、ときどき「楽器全体を響かせるように吹けばいい」というアドバイスを聞きます。 確かに、楽器全体を振動させるような気持ちで吹くと、喉音でも音がしっかりしたように 感じることがあります。
では、どうして楽器全体を振動させると音がよくなるのでしょうか。また、なぜ喉音では音が 薄っぺらい音になってしまうのでしょうか。

まず、リードの振動が音として空間に広がるまでの様子を考えてみましょう。
リードの振動はそのままでは音になりません。リードの振動が何らかの経路で空気に伝わり、 その空気の振動が音として人間に認知されます。問題は、リードの振動が空気に伝わるまでの 経路です。まず最初に誰もが思い当たるのは、楽器に吹き込んだ息です。もちろん息だけ吹き込んでも 音にはなりません。しかし、リードに直接触れている空気ですから、いったんリードが振動すれば その振動の影響をまともに受けるのは明らかです。そして息の流れに沿って楽器の外へ出て行くのも 感覚的にうなづけます。
この管の中の空気が音の伝達経路の大半を占めているのは、次のことからも分かります。それは、 トーンホールを開いたり閉じたりすることで、音程が変わるということです。とてもあたりまえの ことですが、これが重要なのです。このように音程が変化するのは、簡単にいうと「トーンホールを あけることで楽器の長さが短くなったのと同じ状態になった」からです。トロンボーンがスライドを のばすことで音程が下がるのと、ちょうど逆の理屈です。(詳しくは、後日別項で紹介します。) このとき、楽器の長さが影響を与えるのは管の中にある空気です。したがって、もし管の中の空気が 音の支配的要因でなかったとすると、たとえ楽器の長さを変えても音程はあまり変化しないはずです。

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管の中の空気がすべてじゃない

さて、こう考えてみると「どの音でも管の中に息を吹き込むのは一緒だし、音の高さによって 多少息の流れは違うといっても、喉音で音がぺらぺらになるのが説明できないじゃないか」という 疑問が湧いてきます。確かにそのとおりで、もし管の中の空気が音のすべてならば、どの音程でも 同じような音の響きが得られてもおかしくありません。ということは、それ以外の音の伝達経路が あるはずです。それは一体なんでしょうか。
それは、楽器本体の振動です。楽器が振動しているの?と思われるかもしれませんが、これは 楽器を吹いているときにベルを軽く触れてみると、確かに細かく振動しているのが分かるはずです。 このとき、強く触れると震えているのは分かりません。そのくらい小さな振動なのです。(この実験は、 低音でやったほうが分かりやすいでしょう。誰かに吹いてもらって、その楽器を触ってみるのも いいかもしれません。)

では、この振動は音にとってどんな役を果たしているのでしょうか。楽器は空気と異なり固体です。 固体は、音を伝える早さが違いますし、音の高さ(=周波数)によって振動を伝えやすかったり 伝えにくかったりする性質も空気と異なってきます。この結果、空気だけだとあまり伝わらないような 振動も伝わることができます。また、楽器本体が糸電話の紙コップのように音をはっきりさせる作用を 果たすので、空気が伝えにくい高さの音も広がりやすくなります。

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厚みのある音は

ところで、楽器の出す音はさまざまな周波数(=高さ)の音を含んでいます。クラリネットの場合 基本となる音のほかに、周波数が奇数倍(3、5、7、9、11、・・・)の音を中心に、少なくとも10種類 以上の音を含んでいるといいます。これらの倍音は基本の音に比べるとかなり小さいのですが、これらが うまく基本の音にブレンドされることによって、クラリネット独特のあの音色になるのです。
これら高次の倍音が弱くなってバランスが崩れると、音色が薄くなったように感じます。つまり、 音がぺらぺらになった状態というのは、倍音のバランスがおかしい状態なのです。

なぜ、喉音では倍音のバランスが崩れやすいのでしょうか。そのおおきな原因は、先に挙げた 楽器本体を経由する振動が、うまく伝わっていないことが考えられます。これを、私たちはよく「楽器が 響いていない」と表現します。ではなぜ、楽器が響かないのでしょう。いくつか可能性はありますが、 ひとつは楽器に振動するだけのエネルギーが与えられていないことでしょう。楽器の振動は、管内の 空気から与えられるエネルギーと、マウスピースから楽器を順番に伝わるエネルギーで振動していると 考えられます。このうち空気からのエネルギーが、管の上のほうの開いたトーンホールから抜けて しまうのではないでしょうか。
これを回避するためには、息のエネルギーがトーンホールから逃げないような息の使い方をすることや、 マウスピースでの振動が楽器の先端まで伝わるように仕向けることが必要になってきます。物理的に どうするのがよいかははっきりしませんが、私たちは無意識のうちに「楽器を響かせる意識をもつ」とか 「楽器の先端まで息を届ける気持ち」という表現でそういうことをしているのかもしれません。
ちなみに、喉音のときに右手のトーンホールをふさぐと音色が改善するのも、トーンホールを閉じることで 空気からのエネルギーの損失を防ぐことができるからではないでしょうか。ただ、閉じることで 楽器の長さが少し長くなったのと同じ状態になりますから、音程は下がってしまいますが。

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