このページの最終更新:28th Jun 2002

Bb管がメジャーになった理由

クラリネットの調

私たちがいちばんよく演奏する機会があるのは、Bb管と呼ばれるクラリネットです。 これは、楽譜上のドの音を吹くと、実際にはBbがなるように、楽器の調性が ずれているもので、このような楽器を一般的に移調楽器といいます。
クラリネットでは、Bb管のほかにA管やEs管もあります。また、同じ調でも オクターブまたはそれ以上音が高かったり低かったりする楽器もあります。

ところで、これらクラリネット族の調性は無秩序に存在しているわけではありません。 基本的には、BbとEsのオクターブ違いの楽器が基本となり、その他にA管やC管などが 存在します。それ以外の調の楽器、たとえばFis管などというものは(おそらく) 存在しません。
物理的には、楽器の大きさをそのまま拡大・縮小すれば、どの調の楽器でも とりあえず作ることはできます。もちろん、あまりに大きい場合や小さい場合は、 ただ大きさを変える以上の変形をしないと、実際に吹くことはできないでしょう。 しかし、物理的には実現できるほかの調の楽器がなく、先に挙げた楽器しか 事実上存在しないのはなぜなのでしょうか。

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メジャーな楽器になったわけ

まず、Bb管がいちばんメジャーになった原因を考えてみましょう。
直接のきっかけは、フランス革命以降の軍楽隊がBb管を多用したことと、 そのためにBb管を奏する有名なプレーヤーを輩出したことにあるといわれています。 では、なぜ軍楽隊がBb管を使うようになったのでしょうか。
理由はいくつかあると思いますが、その中に「音が通りやすい」というものが あるのではないかと考えられます。軍楽隊が演奏するのは、必ずしも屋内の ホールとは限りません。むしろ、屋外での行進にあわせる演奏の方が、多かったのでは ないでしょうか。そのような場面でも音が聞こえる楽器が使われるようになっても、 何ら不思議はありません。ただし、ここでいう「音が通る」というのは、物理的に 音が伝わるだけでなく、その音が他の楽器や周りの雑音から聞き分けられる、という 面も含みます。

さらに時代をさかのぼると、Bb管やA管のクラリネットは、情緒的な場面で 多く使われています。これに対して、C管などが固い音色を求められるような 情景で使われているようです。情緒の表現を求められているということは、裏をかえせば そのような表現が充分可能な楽器てある、ともいえます。それだけ表現の幅が広く、 音楽に深みをつけることができる、ということでもあります。
複数の楽器を持ち替えることができない場合、どの楽器を持つことを選ぶかといえば、 やはり様々な場面に柔軟に対応できる表現力を持った楽器を使いたいのが人情です。 A管は、Bbに比べて哀愁を帯びた音色の傾向がありますから、華やかな場面には 若干不向きです。また、特にA管は愛を語る情景に多用された経緯もあり、軍楽隊では Bb管を使うようになったのではないかと考えられます。

もうひとつ、Bb調のほかにEs調の楽器が、対を成すような形で存在する理由も 考えておきましょう。
これは、BbとEsの関係がヒントになります。BbとEsは、完全4度の関係にあります。 片方をオクターブ移すと完全5度です。クラリネットは比較的音域の広い楽器では ありますが、それでもオクターブ単位でしか楽器がなければ、間の音域を埋めるのは 大変な作業になります。この間隔を適当な形で埋め、また調性も極端に離れないような 組を作ろうとすると、Bbに対応するのはEsかFとなるのです。Fが選択されなかった 理由はよく分かりませんが、すでにEsクラがあったことなどが影響しているのかも 知れません。

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特殊な調性の楽器は

では、他の調性の楽器はなぜないのでしょうか。
もちろん、Bb管やEs、A管が主流となり入り込む余地がない、という事もあります。 にも関わらず、最近ではC管が再び脚光を浴びる兆しもあります。C管がむかしより メジャーになりつつあるのは、移調の必要がないことや、楽器が小ぶりで特に 小学生などが扱いやすいこと、技術の進歩で音色の特性、特に尖った鋭い音になりやすい 性格が大幅に改善されたことなどがあると思います。この技術を他の調に応用すれば、 もっといろいろな調の楽器が出てきてもよさそうですが、何故かそうならないのです。
それは、残された調の楽器では使いづらいものが多い、という理由があるからです。 たとえば、H調の楽器を作ったとします。吹奏楽やクラシックの世界でベースとなる Bb音階は、H管ではロ長調(記音シから始まる音階)になります。シャープが5個つきます。 これでは、楽譜を読むだけでも大変です。

ここまで述べたことは、絶対の真実という保証はありません。かといって、全くの でたらめでもありません。
一つの考え方として紹介してみました。他の説や考え方もあります。結局は、それらの いくつかが無意識のうちに組み合わされて、選択された結果が今の楽器の レパートリーなのではないかと思います。

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