このページの最終更新:8th Feb 1999

なぜ人はあがるのか

あがりとは何か

私たちは、重要な場面に遭遇すると、緊張感を覚えます。特に大きなステージに 立つような場合、その緊張感が大きくなりすぎて、いわゆる「あがった」状態になってしまう こともあります。こうなると、暗譜していたはずの楽譜がきれいさっぱり頭の中から消えてしまって、 普段できていたことが何一つできなくなってしまうこともあります。
人があがってしまう原因はいろいろありますが、そもそも「あがり」とは何なのでしょうか。 それは、一種の恐怖であるといえます。恐怖に陥って、それが過度になった状態が いわゆる「あがった」状態なのです。

心理学的での恐怖とは、何かしらの欲望が阻止されようとするときに起こる、予期の苦痛 であるといいます。私たちの場合でよく考えられるのは「しくじったらどうしよう」という 言葉に代表される、失敗への恐怖です。
でも、同じように「失敗するかも」と考えても、平気な人もいます。これは、 同じようにストレスを受けても、直接あがった状態になるのではなく、いくつかの段階を 踏んでいるからです。
第一の段階は、ストレスとなる異常刺激を受けた後に生体が受け身の反応を示す状態です。
第二の段階は、刺激にたいして特異性を持って、すなわち加えられた刺激のみに対して抵抗する状態です。
第三の段階は、生体が刺激に対して反応する能力を失った状態です。
この第三の状態が恐怖状態、すなわちあがった状態に当たります。同じストレスでも 第一、第二の段階で止まっていれば、それは過剰な緊張にはならないのです。

このページのはじめへ戻る

あがるとどうなってしまうのか

では、実際にあがってしまうと、どういう影響があるのでしょうか。 人間が恐怖の状態に陥ると、まず影響が現れるのが神経系です。神経の情報伝達が 麻痺状態に陥ってしまうので、筋肉が弛緩した状態になって意識しても力が入らなく なってしまいます。「足がすくんで動かない」状態がこれに当たります。 また、弛緩した筋肉を自律系が、なんとか戻そうとするのですが、その力が弱いので、 ほんの少し動くことを繰り返します。極度に緊張したときに現れるふるえは、 ここから来ているのです。
一方で、情報伝達が正常に行われないということは、決して筋肉だけの話ではありません。 同じ事は脳神経でも起こります。脳神経での情報伝達が止まってしまえば、せっかく記憶したことも 取り出すことができす、何も思い出せない「頭の中が真っ白」になってしまうのです。
さらに、これらの現象は自律神経をも狂わせますから、動悸がしたり、口の中が からからに乾いたりしてしまうのです。

これらの現象は、どれをとっても奏者にとっては困ったものです。指が思うとおりに 動かないことも、手がふるえることも、暗譜した楽譜を忘れることも、口の中が 乾燥することですら、楽器を普段通りに演奏することを困難にします。そして、 その困難を感じることで余計に恐怖心をあおって症状を悪化させてしまうのです。

このページのはじめへ戻る

あがる元凶と対策

では、そもそも「失敗することを恐れる」原因は何でしょうか。
それは、簡潔に述べれば「自分の名誉欲・自尊心」であるといえます。大きな舞台の、 たくさんの人が見ている前で失敗をすれば、自分の自尊心は傷つきます。また、 大舞台で成功を収めたいという欲望は、失敗を恐れることと表裏一体なのです。
このことは、誰も見ていない個人練習であれば別に何も感じないのに、ちょっと 先輩が来て横でこっちを見ているのを意識するだけであがってしまう事でも分かります。 それが先輩ではなくて無関係の人であれば、さほど緊張しないでしょう。

では、あがらないためには、このような名誉欲を捨て去ってしまうのがいいのでしょうか。 確かに緊張する必要はなくなりますが、それは同時に向上心を制限してしまうことにも なってしまいます。人間は、闘争心を持つことによって自らの技能を向上させている という一面は否定し得ないからです。
あがり対策は、いろいろな人がいろいろな方法を実践しています。げんをかつぐのも その一つです。それらを整理してみると、次のように分けることができます。
一つは、恐怖心に十分対抗するだけの準備をすることです。たとえば、本番に備えてたくさん 練習をするとか、技術的な練習をしっかりするなどがあげられます。

もうひとつは、恐怖心が出て来やすい条件を排除することです。これには、自分に大丈夫と 言い聞かせるとか、観客を野菜と思うだとか、そういうものが該当します。
いずれにしても、適度な緊張感は生かして、それ以上の恐怖につながる部分を いかに制御するかがポイントとなってきます。何度か舞台を踏むことで緊張しにくくなる というのは、そのポイントを掴んできているからなのかも知れません。失敗を 恐れすぎることなく、すてきなステージになるようにしたいものですね。

このページのはじめへ戻る