このページの最終更新:1st Oct 2001

3半神話を考える

一昔前の不思議な現象

今ではあまり見られないかもしれませんが、一昔前に足繁く楽器店へ出向くと、毎年不思議な 現象を見ることができました。それはリードに関する現象なのですが、大まかに言うとつぎの ようなものです。
春先に行くと、なんとなくバンドレンの2半と3のリードが少なくなっています。店によっては 完全に売り切れ、ということもあります。それがしばらく続いて、夏ごろになってくると 2半の在庫は回復するのですが、3は相変わらず品不足で、今度は3半がなくなってくるのです。 秋を過ぎると、この状態は収まってきます。そして次の春がくると、また同じように バンドレンの2半と3のリードがなくなってきます。

この現象が示すことは何でしょうか。まず、なぜ売り切れになるのかを考えてみましょう。 どんなお店でもそうですが、商品がなくなれば売り切れです。次にメーカーなり問屋なりから 新しい商品が入ってくるまで、売り切れの状態が続きます。そして、普通は残りがある程度 少なくなった時点で新しい商品を発注し、売り切れになる前に新しい商品がくるようにします。
ここで問題になるのは、次の商品をいつ発注するか、ということです。もし、その商品が 1日に1個ずつ売れると分かっていれば、あと何日でなくなるかの見当がつきますから、 難しくありません。しかし実際にはそんなことはありませんし、何かしらのきっかけで 予想を越えた売れ方をすると、商品がくる前になくなってしまいます。この状態が売切れです。
ということは、理由はともかくとして、春先にバンドレンの2半と3の需要が大きくなり、 夏ごろに3と3半の需要が大きくなっている、ということができるようです。その原因は何でしょう。 大きな原因の一つは、学校の新入生にあるようです。春先に新入生が一斉にバンドレンの2半ないし 3のリードを購入し、夏ごろにそのほとんどが3と3半に移行するため、と説明されます。

では、そもそもなぜみんな揃って2半または3をはじめに買い、夏過ぎに3または3半に移行するのでしょう。 その背景には、多くの人が「リードはバンドレンの3半」と信じていること、さらに「初心者は バンドレンの2半」という説が世の中に広く行き渡っていることがあるようです。一番初めに 誰がこういうことを言い出したのかはよく分かりません。また、なぜここまで広まってしまったのかも 分かっていません。

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本当にその数字はあてになりますか?

では、上で述べた「リードはバンドレンの3半」「初心者はバンドレンの2半」というのは 正しい選択なのでしょうか。これから検証していくことにしましょう。
まず、2半とか3半と云う数字について考えてみます。私たちは普段よく「このリードは薄い」とか 「もっと厚いリードのほうがいい音になる」という表現をします。そして、リードの数字についても、 リードの厚さを示していると考えがちです。これは私たちアマチュアにとどまらず、プロ奏者の発言や 雑誌などでもよく見られることなので、私たちはまず疑いません。

ところが、いま手元に面白い資料があります。野中貿易(バンドレンの日本代理店)が発行している バンドレンのリード・リガチャー・マウスピースのカタログです。このカタログの3ページ目に リードの製造工程を紹介したページがありますが、その中に「リードのコシの強さに応じた番号の スタンプを押す」という記述があります。また次のページにも、箱の中のリードの強さを均一に するための検査をしているという記述があります。このカタログを見る限り、リードの番号を「厚さ」と 表現しているところは1ヶ所もありません。
この事実が意味するところは、リードに振られた番号は物理的な厚さとの関係が薄い、ということに ほかなりません。もちろん、物理的に厚いリードはコシも強くなるのが普通ですから、まったく見当違いと 云うわけでもないでしょうが、何ら相関性を保証したものではない、ということになります。

さらに、この振られた数字自体もどこまで厳密なものか、自信を持って保証できるものではないようです。 私たちの経験からも、同じ番号の箱の中でも難いリードと柔らかいリードがあるのは明らかですし、 となりあった番号で、硬さの感じ方が反対のリードがあることも珍しくはありません。
僕はかつて、高校の後輩に協力してもらってこんな実験をしたことがあります。2半から4までのリードを 20枚くらい準備し、フェイシング面の印刷を見ないで試奏してもらい、硬いと感じた順に並べて もらったのです。その結果をきっちり記録していないのは痛恨事なのですが、2半と4が入れ替わるような 極端なことはなかったものの、隣り合った番号のリードが入れ替わったり入り交ざることは非常に多く 見られました。また、同じリードでも奏者によって感じ方がだいぶ違うということも確かめられました。
このようなばらつきは、リードが天然の材料から作られている以上やむをえないものです。それでも なお、リードの番号に、それも「厚さ」に固執する必要があるでしょうか。

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本当にそれがベストコンディションですか?

次に、リードとマウスピース、そして奏者の関係を見てみましょう。
まず、リードとマウスピースの関係には、ひとつの大きな目安があります。それは、マウスピースの 先端の開きが大きいほうが柔らかいリード、またフェイシングが短いほうが柔らかいリード、とするほうが よい、というものです。これは、先述のバンドレンのカタログのほか、多くの参考書にも記述されて いることです。このこと自体は、私たちの感覚から言っても、物理的にリードの振動を考えてみても さほど問題は無いように思われます。しかし厄介なのは、先端が開いたマウスピースが必ずしも フェイシングが短いわけではないということです。したがって、先端の開きとフェイシングのどちらを 基準に考えるかでセッティングが変わってしまうわけです。この混乱を避けるためでしょう、バンドレンは リードとマウスピースの対応表を作っています。それを見ると、マウスピースとリードの対応は 1対1ではないということは明らかですが、ある程度の関係があるということが分かります。

ところが、先の「リードは3半」にはどのマウスピースなのかという概念が完全に抜け落ちています。 「初心者は2半」にしても同じです。しかも「初心者は5RV」だとすれば「初心者は5RV+2半」はバンドレンの 推奨から外れているようにも見えます。もちろん、バンドレンの推奨が絶対ではありませんので、 外れていることが即問題であるとはいえませんが、少なくとも、どのマウスピースを使うかによって よく合うリードが変わってくるという事実を、無視していることだけははっきりしています。

さらに「リードは3半」には奏者の個性の概念もありません。たとえば、同じマウスピースを使っている 奏者であっても、女性か男性か、体格や肺活量などによって、リードの硬さに対する感じ方が 変わってきます。仮に同じ感じ方であったとしても、奏者の好みによって理想と思う硬さも 変わってきても何ら不思議ではありません。それでも「リードは3半」なのでしょうか。
ついでにいえば「半年で3半へ」というのも変な話です。人によって練習量は当然違うはずですし、 練習密度も違えば上達速度も変わってくるはずです。たとえば教習所では、最低教習時間こそ決まって いますが、どこの教習所にいっても「○時間乗ったから次の課程」という規則は表向きありません。 あくまでも、一定のレベルに達しないと次の課程に進めません。クラリネットでも同じように、 一定のレベルまで自分の状態が変化して初めて、リードを変えるということを検討すべきであって、 一定の時間の経過が変えることを推奨したり強制するものではないはずです。

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本当のところはどうなんでしょう?

さて、ここまでいろいろと考えてみたところ「リードは3半」というのはあまり根拠のない 神話であるようです。もちろん、まったくのでたらめかといえばそうではないのですが、少なくとも そのまま鵜呑みにして実行するのは大いに問題ありです。
かといって、全くの白紙からどうしたらいいのかを考えるのは非常に重労働ですから、これらの考え方を ベースにして、その人の個性や技量によって柔軟に調整する、というのが一番現実的な対応では ないでしょうか。少なくとも「ほかの人と違うセッティングだから」とか「3半じゃないから」という理由で 責められるいわれはないし、気にする必要はないはずです。

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