このページの最終更新:19th Dec 1998

クラリネットへの誤解


クラ吹きの憂鬱

別にクラリネットに限ったことではないのですが、楽器を演奏するというのは楽しいものです。 もちろん一人で演奏してもいいけど、一人より二人、あるいはもっとたくさんの人が集まれば、 演奏はもっと楽しいものになります。

ところが、実際に吹奏楽部にいるクラリネット吹きにとって、合奏や演奏会は 必ずしもすべてが楽しいことばかりではありません。もちろん自分自身が練習不足だったり する場合は自分が悪いのでここでは追求しませんが、そうでない場合も あるのではないでしょうか。特に気になるのは、ごく一部の人の事例だけをみて 全体がそうであるかのように考えてしまったり、何の根拠もなく勝手に信じ込んで しまっている、そんな誤解がクラリネット吹きの憂鬱の原因になっていることが 結構たくさんあるからです。

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クラリネットに俊敏性はあるか

クラリネットに限らず、一般的に木管楽器は細かい音符が多い楽譜が回ってくることが けっこうあります。その原因は、作曲者や編曲者が「木管楽器は細かい音符に強い」と 考えているからに他なりません。でも、果たして本当にそうでしょうか。
結論からいえば、たとえ木管楽器といえどもそこまで強調するほどの俊敏性は ないといえます。その根拠は大きくいって次の2つです。

クラリネットは、楽器を支える右手親指以外の9本の指を使って演奏します。 すると、楽譜によっては(というかほとんどの場合)、複数の指が同時に動く場面が 出てきてしまいます。ここでちょっと試してみてほしいのですが、右手の指と左手の指を 同時に上下させてみてください。それも、全部ではなく、一部は上げたまま、他の一部は 下げたままでやってください。どうでしょう、必ずしもスムーズに同時には 動かなかったのではないでしょうか。さらに、右手は上げつつ左手は下げるとか、 右手の薬指を上げながら人差し指をおろすといった、動きが交錯するようなものも やってみるといいでしょう。見た目よりも困難であることがわかるでしょう。
クラリネットを吹くということは、指の動きに限ってみればこの作業の繰り返しです。 そのパターンはほぼ無限といってもいいくらいたくさんあります。 少なくとも楽なことではないのです。

もう一つの点について。金管楽器の場合、同じ指使いで様々な音を出すことができます。 さらに、指使いを変えることなく音を移動したり、音のピッチを大きく変えることも可能です。 クラリネットの場合、同じ指使いで出る音は非常に限られます。しかも、吹き手ががんばっても その音のピッチはさほど変わりません。
これは、金管楽器に比べてクラリネットの方が、吹く音を決定する要因が人間側から 遠いところにあるということを意味してはいないでしょうか。つまり、クラリネットの方が 音を決める自由度が少ないということになるのだとも思えるのです。もちろん、 これはこれでいいことであって、運指さえしっかりしていれば、確実にその音が出ると いうことなのですが、その微妙なバランスを維持しながら速いパッセージをこなすことは、 そう易しいとは思えません。

当たり前のことなのに、これら点が軽視されてきた原因は歴史をひもとくと見えてきます。 それは、楽器の創始期に活躍したプレイヤーたちの置かれた状況を考えると分かります。
当時、新しくできた楽器はすぐにそれまでの楽器を駆逐したわけではありません。それは、 たとえ新しい楽器が性能的にすぐれていても、古いスタイルにこだわる権威ある人々を 打ち崩す必要があり、それに時間がかかったからです。たとえば、現代クラリネットの 原型といえる13鍵クラリネットや、初期のベーム式クラリネットでさえ実際に普及するには 多少の時間が必要でした。その普及に際しては、優れた技術を持った奏者たちが 実際にその楽器ですばらしい演奏を披露し、楽器の良さを印象づけていく作業があったのです。

ここに事の原因の一つがあります。つまり、楽器のいい点を強調するあまり、誰もが そういう高等なテクニックを必要とする演奏が可能になるという印象を与えてしまったのです。 事実、クローゼはベーム式クラリネットが全ての調を自在にふけることを強調するため あえて複雑な音階を吹いたといいます。それが今の「技巧練習教則本」の原型らしいのです。
このようなPRのせいで、木管楽器は俊敏性があると印象づけられたともいえるでしょう。 もちろんそういう成果がなければ今のクラリネットはなかったわけで、単純に責めるわけにも いかないのですが。

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クラリネットは弦楽器になるのか

オーケストラの曲を吹奏楽にアレンジする場合、弦楽器、特にバイオリンなどの高音域の楽譜が クラリネットに移されることが多くあります。理由はいろいろあるでしょうが、一つには クラリネットの音と弦楽器の音が似ているという考えがあると思われます。

もともとクラリネットも弦楽器も楽器の本体は木です。もちろん原木の種類は異なりますが、 音の響きが金管楽器などの金属を使った楽器より似てくるであろう事は容易に想像できます。 だから、弦楽器のパートをクラリネットに持ってくるのは、イメージを大事にする限りは そう誤った選択ではないのです。
ところが、ここから過大解釈が起こってしまっているようです。それは、クラリネットの音を 弦楽器の音と同一視してしまうことです。かつて、高校生のクラ奏者にどんな音で吹きたいか 聞いたときに「バイオリンのような音」という答えがあってびっくりしたことがあります。 また、合奏中の指揮者の指示に「弦楽器みたいに」というものがあったこともあります。
いいたいことは分からないでもないですが、それほど弦楽器調の音がほしければ弦楽器か その音を出せる電子楽器を準備すればいいはずです。弦楽器パートをクラリネットが吹くのは、 その木の暖かみを持った音が大事なのであって、決して弦楽器そのものの音が大事なのでは ないはずなのです。
嘆かわしいのは、クラリネット奏者の中にも同じ誤解をしている人がいることです。 もっと、クラリネットの独特の暖かさを知ってほしいし、大事にしてほしいものです。

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