このページの最終更新:3rd Sep 2001

音色探求のススメ

いい音ってなんだろう

皆さんは、先輩や指揮者に「もっときれいな音で吹いてください」というような指示を されたことはないでしょうか。そういう経験がなくても、誰もが「もっといい音で 吹けたらなぁ」などと、漠然と考えていることでしょう。
もちろんそう考えることは、向上心の現れですから、何も考えないで漠然と 練習しているよりは何十倍もよいことです。ですが、では実際にいい音で吹くために 何かしているでしょうか。多くの場合「いい音で吹きたい」とは考えていても「そのために 何かしているか」と改めて問われると、「特に何もしていない」ということが多いのでは ないでしょうか。
それではあまりにもったいないので、少しでもいい音に近づくためには、何が キーポイントになるのかを考えてみましょう。

まず考えてみたいのは、そもそも「いい音」の基準は何か、ということです。一口に いい音といっても、その条件はいろいろあるように思われます。思いつくままに 挙げてみても、

といったところでしょうか。
もちろん、ここで挙げたのはあくまでも一例ですから、ほかにもいろいろな切り口が あるでしょう。大事なのは、項目がどうとか、その基準がどうということではなくて 、「いい音と一口に言っても、絶対的な基準はない」ということです。
にもかかわらず、私たちは多くの場合漠然と「いい音で吹きたい」と思い、よく わからないままに闇雲に努力をしてみたり、よくわからない故に特に何もしない 状態になっているのではないでしょうか。すなわち、求めている「いい音」がよく わからないことが、いい音でふけない原因の一つになっているのではないでしょうか。

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音色の手本を探そう

では、そのわかりにくい「いい音」を具体化するにはどうすればいいのでしょうか。
すでに見てきたように「いい音」を言葉で表現することには限界があるようです。 また、自分の中の概念として想像するだけ、という方法も、具体性という観点では 少し弱いようです。

具体化する一番よい方法は、現物を持ち出すことです。なぁんだ、という感じも しますが、これは非常に大事なことですが見落としがちです。
ためしに、自分を含めた周りにいるクラリネット吹きに「いま自分が音色の目標と している奏者は?」と聞いて回ってみてください。何人の人が、具体的な奏者の 名前を即答しましたか? きっと、それほど多くはなかったはずです。

まずは、世の中のクラリネット奏者の音を注意深く聴いてみて下さい。ひとり ひとり、その音の特徴があるはずです。もちろんその中には自分に感覚とは ぜんぜん違うものもあるでしょう。でも、たくさんの奏者を聴き比べるうちに、自分が 漠然と持っているいい音のイメージに近い音を見つけ出せるはずです。
その音をよく研究してください。特に、なぜ自分がその音がいいと思うのか、あるいは どの部分が自分の思う「いい音」に合致しているのか、じっくり考えてみてください。 そこまでをはっきりさせることで、自分の音へのフィードバックも現実的になって くるのです。
もちろん、自分の求める音に完全に合致する奏者が見つからない事も、充分 考えられます。その場合は、イメージに近い音をいくつかピックアップして、それら のいい部分を自分なりに合成してみるのです。ただ、現物の音として存在しなく なりますから、具体性は若干落ちてしまうので、その分を想像力で補う必要が ありますし、逆に想像力で補える程度の合成にとどめる必要があるといえます。

ちなみに筆者の理想は、北村英治氏の音にサビネ・マイヤー女史のしっとり感を 上乗せした音です。北村氏はジャズクラリネット奏者ですが、氏の音色や演奏は、 吹奏楽の演奏でも非常に参考になる点が多いと、僕自身は思っています。

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意識と無意識の狭間の練習

ところで、いい音色を自分のものにするためには、そのような練習をすると よいのでしょうか。よくよく考えてみると、音色をよくするための練習、というのは あまり聞いたことがありません。
現実問題として「この練習をすれば必ず音色がよくなる」という練習法は ありません。強いていえば、いろいろな練習をたくさんこなすことが、一番基本的な 練習法、ということになります。

クラリネットの音色は、さまざまな条件によって微妙に変化します。楽器の セッティングや奏者のコンディションはもちろん、気温や湿度でも変わる可能性が あります。また、アンブシュアや口の中の形、姿勢などの変化が影響することも 充分考えられます。
「そんなに影響する原因が多かったら、練習のしようがないではないか!」と いうことになってしまいます。確かにそれらの原因を意識することで音色を変えようと 考えると、話は困難になってしまいます。原因の多くが無意識の変化によること なので、なおさらです。

でも、話をもう一度よく考えてみると、実は「無理に意識して音色の変化の原因を 考える必要はない」ということも言えるのです。気にしなければいけないのは、音色の 変化の因果律ではなくて、音色そのものがどうなっているか、ということだけなのです。
人間には、変化を読み取ってその変化が自分によい方向に働くように自分を制御する 機能(フィードバック)を持っています。直立不動で立っていられるのも、まっすぐ 歩けるのも、このフィードバックのおかげです。音楽でもこの機能を生かすことが できます。たとえば、合奏で自分だけ音が大きすぎたら、少し音量を控えます。その 控え方が足らなければもう少し音量を落とすでしょうし、控えすぎたら今度は少し 大きくして、最終的には適切な(と奏者が思う)状態に落ち着きます。これも、一種の フィードバックです。
このフィードバックを音色に援用すると、こうなります。まず、自分の音があります。 理想の音とは差がありますが、理想の音に近づける術がありませんので、まずは その状態を維持しようとするフィードバックがかかります。このときに何かの拍子に 音色が変わったとします。もし音が理想から離れれば、元の音色に戻そうとする フィードバックがかかります。もし理想に近づけば、今度はその変化したあとの 音が新しい基準になります。

このフィードバックを自力で実行しようとすると、非常に難しいのは明らかです。しかし 人間は都合のいいことに、ある程度意識されたことは、無意識でも実行できるのです。先に 挙げたまっすぐ歩くことでいえば、幼子がよちよち歩きをするときは、歩くことに 全力で神経を傾けているけれども、大人は特に意識していないけどまっすぐ歩ける、と いうことです。大人が意識するのは「(まっすぐ)歩く」という目標点です。
音色の場合も同じで、目標の音を意識することが無意識にできるようになれば、じわじわと いい音に近づいていくはずです。「無意識に意識する」というのは言葉としても 変ですし、実際そう簡単なことではありません。でも、自分の理想とする音をしっかり 持つこと、自分がいい音で吹きたい、という希望の意識を持ちつづけることが、無意識に 意識するためには一番近道なのではないでしょうか。

いい音を出すことの難しさは、練習をしたからといってすぐに改善されないこと、改善が 目に見えないため「よくしたい」という意志をもちつづけるのが難しいことにあると 思います。でも、難しくても、決して不可能なことではありません。少しでもいい音に 近づけるように、まずは目標をはっきりさせるのが一番目の仕事になるのではないでしょうか。

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